大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和29年(ラ)13号 決定

抗告申立人 株式会社塩釜商会

代表者取締役 小松寿右エ門

訴訟代理人 佐藤政治郎

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由は末尾添付別紙記載のとおりであつて、これに対し当裁判所は次のように判断する。

国税徴収法による滞納処分に基き行政機関が差押えた不動産に対しては更に民事訴訟法による強制競売の申立を為し得ないものと解するを相当とする。この点に関しては国税徴収法及び民事訴訟法に明文の規定を欠いてはいるが国税徴収法第二条、第三条、第四条の一、第二十八条第二項第三項、民事訴訟法第六百四十五条等の規定に徴しても抗告人主張のような重複的差押を許すものとは到底考えられず、従つて既に国税徴収法による滞納処分に基く差押のあつた不動産に対しては民事訴訟法による強制競売の申立によつて競売開始の手続を為し得ないものというのほかはないからである。

本件競売申立の目的たる不動産中原決定添付目録記載の物件については仙台法務局荻浜出張所において昭和二十七年六月九日受附第二二五号国税滞納処分による差押の登記の存することは記録上明らかであり、原審はこれを以て競売手続の開始を妨げるものとし昭和二十九年一月二十七日債権者たる抗告人に対し同年二月六日迄にその障碍の消滅したことを証明すべき旨を命じたが抗告人がこれを為し得なかつたため前記目録記載の不動産に対する本件競売開始決定を取消しその競売申立を却下する決定をしたのであるが、原審のこの決定は前段説示するところにより結局相当というべきである。

抗告人の所論は独自の見解に立つて原決定を非難するもので到底採用することができない。論旨は理由がない。

よつて民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条に則り主文のとおり決定する。

(裁判長判事 板垣市太郎 判事 檀崎喜作 判事 沼尻芳孝)

抗告の理由

一、原決定は抗告人の競売申立却下の理由として「当裁判所は抗告人の申立により昭和二十九年一月十八日競売手続開始決定を為し、同日管轄登記所に競売申立記入の登記を嘱託したところ、債権者の申立に係る不動産中、別紙目録記載の不動産については、既に昭和二十七年六月九日受附第二二五号国税滞納処分による差押の登記があることが登記官吏の通知に依り顕はれたので、競売手続の開始進行を為すことができず且つ、既に国税滞納処分による差押の存する右不動産に対し、競売開始決定を為すことの許されないことは明白であるから不適法として却下する」と謂ふ。然し抗告人は右所轄登記所に不動産登記法第百五十条に則り異議申立を為したことを執行裁判所に通告したことは記録に明白であり、そして其異議の内容も所轄登記所の右滞納処分の差押登記がある一事により本件競売登記記入を為し得ずとて、たやすく却下することは税金債権を尊重して一般民間債権を排斥する結果を現出させるもので民主主義下の平等観念に背反する取扱で適憲性を欠くものであるから受理さるべきとなしたのである、即ち右通告書に添付した異議申立の内容に詳述したように、1、一度滞納処分による差押記入の登記があれば、それが本件のように一ケ年半以上或は二年、三年と長期にわたり公売処分をしないときでも民間債権者は拱手傍観してゐなければならぬ不条理と債務者の財産散いつを見送らねばならぬ不都合を来すこと(散いつの可能性は通告書に添付した異議申立書の第二項を援用する)2、税金とて一の債権でたゞ一般普通債権に比し、優先的先取権あるに過ぎない其以外は平等に取扱はるべきであるのに(民訴法第六百四十五条は平等衡平に取扱つてゐる)税法に依る滞納処分には民事訴訟法第六百四十五条の如き明文を欠くので前記のような不条理を現出し延いて其債権の執行力を痲痺さして顧みない不均衡を招来する、3、近時滞納処分の差押を受け、滞納者と税金債権者と合意して延納延納となり長期にわたり差押登記記入が解除にならないでゐることは、稀れではないし、之を債務者が濫用し得る、4、第三者が税金債権者に其滞納額を照会しても(債務者も同様)明示してくれない、為めに第三者弁済が至難である。此種の事件については、

二、法の欠陥だとするなら本件のような具体的な事件について裁判所が基本法の憲法に立ちかへつて法の前に平等でなければならぬよう立法者たらば如何にすべきかと創案して裁判してもらはないことには、「長いものにはまかれろ」の封建性を助長さすることゝなつて憲法第十四条は、顕身しないことになる。執行裁判所が税金債権者に何程の滞納であるかを報告を求めて、第三者弁済を為さしめる機会を与へしめるとか、の操作を職権を以て、親心を施用しないことには、前記の不都合はやまないのである。

三、滞納処分による差押記入登記と民訴法第六百四十五条との調和調節を適憲(法の前に平等の)に本件を裁判して頂きたいのである、因に前記異議申立(登記所に)に対しては、未だ採否の処分はないのです。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例